Home ＞ 核兵器・被爆・原発 ＞ 被爆体験「広島刑務所勤務中に被爆」

　

被爆体験「広島刑務所勤務中に被爆」

大分市    安東 荒喜  さん 

＊タイトルは内容に即して変更しました。 元タイトル「（ある書簡）」

＊この書簡文は、当時広島刑務所に勤務中被爆した安東荒喜様が、原爆投下後の被害状況を報告したもので、今回ご遺族（安東二三子様）から提供していただきました。

客月六日午前八時十分  警戒警報及空襲警報発令下ニアラザル当市全域ニ亘リ原子爆弾ニ依ル空襲アリ其惨害今尚、戦慄ヲ覚ユルモノ有之  当時小生ハ戒護課ニ於テ書類検印中先異様ナル光線ヲ認メタルモ其何物タルヤヲ探知セズ  且最初ノ事デモアリ何等ノ不安ヲ感ズルコトナク依然検印中約十秒経過後大爆音ヲ聞クニアラズシテ突如「グラグラ」ト云フー大音響ト共ニ戒護建物大破  天井始メ瓦其他ノ落下物無数  中ニ自分ハ約二間位吹キ飛バサレテ、戒護中央近クニ在ルヲ意識ス時真ノ暗黒（ゴミ散乱ノ為）間モナク外部ヨリ光線ヲ認メタルヲ以テ其方向ニ脱出  左前腕部ニ縫合四針ノ負傷ヲ始トシ外十数ヶ所ノ擦過傷ヲ受ケ上半身ハ血ニ染ミ其何人タルヤヲ判別出来ザル程度ニ有之  戒護本部前ニ停立一瞥スルニ各工場各舎房共全部崩壊  収容者ハ屋根ヨリ脱出スルモノ救ヲ求メルモノ阿鼻叫喚実ニ惨害ノ極ニ有之候

軽傷者ヲ督励救助救出ニ努メ併而、戒護検策ニ任ジ所内ヲー巡スレバ各種通用門各非常門各事務室ハ何レモ一瞬ニシテ倒壊  各官舎ハ或ハ倒壊或大破ノ状況ニシテ所内出火十ヶ所余ニ至リタルモ何レモ完全消火火災ニ至ラザリシハ不幸中ノ幸ニ有之候

右災害ニ依リ収容者即死十四名・重傷八十八名、職員即死四名（津國技手・山口技手・宮野部長・乗元教誨師）、重傷三名ニ有之  無傷ノモノハ職員及収容者ヲ通シ殆ド一人モ無之候

工場又ハ舎房内ニ在リシ者ハ打撲傷  外部ニ在リタルモノハ光線ニ依ル火傷ニ有之候  市内ハ全部焼失而モ同時ニ各方面ヨリ出火  消防器具ナク消防ニ従事スル人ナク身ヲ以テ逃ゲントスルニ止ムル  時ニ愚息二男英雄事  当官舎ヲ去ル約五六丁所在ノ代用校舎  休業中ノ浴場脱衣場約四坪ヲ教室トシ吉島町残留学童十数名ガ授業ノ為メ当朝七時三十分警戒警報解除ト共ニ登校  八時十分ニハ己ニ之ノ災禍ニ遭遇シ万斛ノ恨ミヲ呑ミツツ永眠シタルモノト存候

当日午前八時十六分頃所長ヨリ英雄ノ救出方ニ出向スル様慫慂セラレタルモ多数部下看守ガ家ヲ忘レテ救助ニ戒護ニ懸命ニ努力ヲ払ヒツツアルノ現状ヲ見テハ之ヲ辞退スルノ外ナク  其後調査致候処当日当時登校中ノ学童七名ハ教室内ニ女児ハ前道路ニ在リタル時例ノ光線ヲ認メ子供ナガラニモ焼夷弾ナリト直感  女児ハソノ儘夫々帰宅  男子ハ教室内ヲ右往左往スル内早クモ天井落下  引続キ建物ハ倒壊シタルモ教室中央前ニ在リシ者ニシテ自力脱出ノモノ二名  直近在住ノモノニシテ保護者ヨリ救出セラレタルモノ二名  是等生徒ノ話ヲ綜合スルニ英雄ハ教室ノ奥ニテ遊ビ居ル時此ノ難ニ遭遇シ自力脱出ノモノガ出ル時ニハ英雄君ガ「カアチャン助ケテ」ト連呼シ居リシモ脱出ヲ終リタル頃ニハ己ニ其声サヘモ絶ヘタル由ニ付テハ不運ニモ相当重傷ヲ受ケ且自力脱出シ得ザル状態ニ在リシモノト存候  呼々救ヲ求メタル吾ガ子ヲ両親アリナガラ救出ニ間ニ合ハズ  本人ガ待ツ時間コソハ実ニ一日千秋ノ思ヒ処ニアラズト存候  該代用校舎ニ火ノ移リタルハ午前八時三十五分頃ノ由ニ有之  職務上トハ云ヘ死体ノ収容モ出来ズ白骨ト化シタル吾ガ子ノ遺骨ヲ収拾シタル心中御察シ願上候

反面英雄ハ最近郷里ニ疎開方ヲ度々申出  最後ニハ単独ニテモ帰省スルト頑張ル状況ニ付「斯様ニ帰リタガルノニ帰サズニ若シモノ事ガアツテハ」ト妻ニ申シタル事有之候

英雄ハ己ニ帰省ニ付意ヲ決シタルモノカ郷里ノ友達ヘノ御土産ナリトテ国民学校ノ帽章十ケヲ購入  自分ノ机ノ中ニ格納致在候  又郷里ノ小供ニハ近イ内帰宅スル旨ノ発信モ致候

何ノ彼モ因縁トハ在候ヘ共  数々ニ思ヲ致時諦メ得ザウモノ有之候  客月二十四日ハ英雄ノ憧憬ノ地郷里ニ於テ葬儀執行  永久ニ安カニ成仏スル様祈念

今尚祈ヲ続ケ居申候

先ハ右生前ノ御厚誼ヲ深謝シ併而災害ノ状況如斯御申上候

追而  愚妻ハ右瞼ニ三針縫合ノ負傷ヲ受ケタルモ軽傷ニシテ己ニ全治ニ付申添ヘ候

九月六日

＊文章中の漢字の一部はWEB表現上現代仮名遣いに直したものがあります

＊この文章は、大分県原爆被害者団体協議会が被爆５０年（１９９５年）にあたり、体験を風化させないため、聞き書き出版した『いのちー２１世紀への遺言』から、許可を得て転載しました。出版に当たり大分県生活協同組合連合会と大分県連合青年団が聞き書き調査に協力しています。