Home > 第24回
出演:林えいだい
朗読:田中泯
監督:西嶋真司
福岡アジア文化センター所長・大分大学名誉教授
森川 登美江
これは著名なルポライター、蒲田慧氏が「抗い」の公式パンフレットに寄せた文章である。わずか9行の中にえいだいの業績と人生が見事に凝縮されていて私は思わずうなってしまった。
本作は、RKB毎日放送ディレクターの西嶋真司氏が、えいだいと他の番組を制作する中で「えいだい」その人に魅了され、ついに彼に密着してその姿を追い、映画化したものである。封切り以来、各地で大きな感動を呼び起こしている。
えいだいは1933年、炭鉱で賑わう筑豊の、奈良時代から続くお宮の神主の子として成長した。父、寅治はシベリア出兵の際「この戦争はおかしいのじゃないか」と言ったため零下40度のなか重営倉に入れられ、凍傷にかかって足の指がなく、夏でも白足袋を履いていた
戦時中、朝鮮半島から強制連行されてきた朝鮮人が大勢筑豊の炭鉱で働かされていた。彼らは落盤事故などの恐怖や過酷な労働、故郷恋しさに山越えして林家の神社にも逃げてきた。彼らをえいだいの両親は自宅に匿い、傷が癒えると逃がしてやった。出征兵士の壮行会の日、寅治は「お前たちは必ず故郷の妻子のもとに帰ってこい。無駄死にしてはならないぞ」と言った。その夜、特高に逮捕され激しい拷問を受けてまもなく死亡した。葬式を出すことさえ許されなかった。えいだいが小学4年生の時である。
えいだいが半世紀をささげて書き上げた著書は60冊近く。
私は20年以上、彼の間近で仕事ぶりを見てきたが、そのどれもが徹底した取材に裏打ちされ、読者の胸を打つ。がん治療で動かなくなった指に愛用の万年筆をセロテープで巻きつけ原稿用紙に向かう姿には粛然として頭を下げざるを得ない。この三月には喉頭がんの手術で彼は声を失い、今は筆談に頼っている。まさに満身創痍で力を振り絞っているのだ。
再び戦争の足音が忍び寄っている現在だからこそ、「権力に捨てられた民、忘れられた民の姿を記録していくことが、私の使命である」と訴える「記録作家林えいだい」の「抗い」を是非とも多くの方に見てほしいと切に願っている。
<映画公式サイト>http://aragai-info.net/kaisetu/index.html
<映画予告編>